東京高等裁判所 平成4年(ラ)414号 決定
1 本件記録によれば、抗告人は、横浜家庭裁判所に対し、財産分与の調停を申し立てた(平成三年(家イ)第二五六二号事件)ところ、調停委員会の調整の結果、相手方は金一五〇万円を支払うこと及び次回期日にこれを持参することを約し、抗告人もこれを承諾したこと、相手方が次回期日に現金一五〇万円を持参したところ、抗告人は、その意思を翻し、金七〇〇万円ないし八〇〇万円の支払いを要求したため、調停は不調となって審判手続に移行したこと(平成四年(家)第八〇九号事件)が明らかである。そして、原裁判所は、財産分与の程度、方法は、第一次的に当事者の協議によって定められる性質のものであり、上記の調停の経過によれば、調停は不成立に終わったものの、当事者間の協議は一旦は成立し、かつ、後日これを一方が自由に無きものとなしうるような特段の事情が認められないとして、相手方に対し、抗告人への財産分与として金一五〇万円の支払を命じた。
2 しかしながら、家事調停の期日において当事者間にある事項が合意されたとしても、これが最終的に調書に記載されるまでは調停が成立せず(家事審判法二一条一項)、特段の事情のないかぎり調停が成立するまでの間は、当事者は合意事項について不服があるときは合意の意思表示を撤回することができ、この場合においては、家事審判法上の調停が成立しないことは勿論のこと、民法上の財産分与についての合意ないし和解も成立しないものと解するのが相当であって、家事調停の期日における当事者の意思表示は、家事審判法上の調停が成立することを前提とした暫定的な意思表示とみるべきである。そして、本件においては、本件記録の事件経過表に「財産分与として相手方は申立人に対し金一五〇万円を次回期(日)に現金で支払うことで合意した。」旨の記載があるにとどまるところ、右記載の趣旨は、次回期日に相手方が現金一五〇万円を持参してきたうえで調停を成立させることで双方が合意したにすぎない事実を直截に表現したものであり、更に進んで、次回成立予定の調停の成否の如何にかかわらず、上記の調停の席上での合意をもって当事者間において法的拘束力を有すべき「協議」(民法七六八条二項)が成立したとまで認めるべき特段の事情をうかがうことはできない。
そうすると、財産分与の額は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して定めるべきであり(前同条三項)、調停中の当事者の言動もここにいう一切の事情として考慮することはもとより差し支えないが、当事者が暫定的に合意した事項を協議が成立したものとして財産分与の額を定めるのは違法であるといわなければならない。
3 してみれば、家事調停の期日において当事者間で一旦成立したものの、後に撤回された合意事項のみに依拠して、相手方から抗告人に対する財産分与の額を金一五〇万円と定めた原審判は違法であって、取り消されるべきである。本件抗告は理由がある。
(岩佐 小川 南)